2024/09/22

国際学会「ICMEM2024」で仮想災害対応シミュレータに関する研究を発表した話

お久しぶりとなります。博士課程1年の塚本です。修士課程卒業後、社会人として働くも、どうしても市川研究室の様々なプロジェクトに携わりたいという気持ちから、会社を辞めて博士課程に戻ってきました。今回は研究をしたかったプロジェクトの一つである「仮想災害対応シミュレータ」に関する話です。よろしければ最後までご覧ください。

ICMEM2024とは

この学会は、市川研のブログでもよく見かけるgPBLの参加校であるITB(Institute Technology BANDUNG)がホストとしている学会であり、市川研究室としては比較的参加しやすい国際学会でした。初めての国際学会で、査読という壁がありながらも、やはり知っている大学が存在することは心強いものです。この学会は、ITBがホストということもあり、ビジネスに関するテーマが主軸となっています。そのため、市川研究室が持つようなシミュレーションは縁の遠いものと思われます。しかし、発表カテゴリの中には、社会システム科学に関する枠組みも存在しており、私はその枠組みで投稿をしました。

画像:ICMEM2024の発表カテゴリ(HPより引用)

仮想災害対応シミュレータについて

このシミュレータは、市川研究室のプロジェクトの一つである戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)がベースとなったシステムです。SIPとは、簡単に言うと、Society5.0の実現に向けた14の社会課題を解決する内閣府のプロジェクトであり、市川研究室はその課題の一つである「スマート防災ネットワークの構築」に参画しています(SIPの詳細はHPを参照してください)。その一環として、仮想災害対応シミュレータ(最近名称が変更され、Disaster Social Simulator:通称DSSとなりました)を作成しています。震度情報をインプットとし、仮想的に災害による被害、例えばインフラの被害はどれくらい発生しているのか、土砂災害に巻き込まれた建物は何軒かなどをを作成し、それに伴った各避難所の避難者数などをアウトプットとするシムテムです。このシミュレータは、災害時に活動する組織の訓練に使われています。例えば、災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)の研修として、このシミュレータの算出結果を元に図上訓練などが行われたこともあります。

このシミュレータは、大きく分けて2つのシステムで動いています。一つ目がインフラ被害を算出するための災害シミュレータ、二つ目が被害を元に人々の行動を表すエージェントベースシミュレーションモデル(ABM)です。一つ目に関しては、市川研が代々作成してきたプログラムであり、送電網などのネットワーク情報を元にインフラ被害を発生させるシステムです。二つ目に関しては、SOARSというJavaベースの社会シミュレーションライブラリを使用して実装したものです。SOARSでは、人間一人一人=エージェントに行動ルールを持たせて、そのミクロな行動が避難所の混雑などのマクロ現象を引き起こし、マクロ現象を知覚したエージェントは別の行動を起こすといった相互作用(ミクロ・マクロループ)を再現することができます。このような機能を持つシミュレータについて発表を行い、研究の整理、モデルの課題発見、国際学会の立ち位置、今後の課題についてを学習してきました。

この学会を通じて感じたこと

この学会に参加して反省点が三つあります。一つ目は学会での戦略です。学会によっては優秀論文賞などのアワードがもらえることがあります。せっかく学会発表するならそこを目指したいものです。今回の学会ではビジネスが主のテーマであり、この災害シミュレータがビジネス目線でどのような新規変革をもたらすのか、という点が自分にはありませんでした。そのため、次回学会に参加する際には、その学会のテーマとして何がホットワードなのか、どのような目線を持つことが評価されるのか、自分の研究が提供できる目新しさや興味は何かという点も補強しつつ参加しようと感じました。

二つ目に、モデルの精密さです。このシミュレータは訓練に用いられるものであり、シミュレータの結果は「こういった結果ももしかしたらあるかもしれないよね」という、災害シナリオの一つであるというニュアンスを含んでおり、厳密な避難者の推定を目指しているものではありません。しかし、感覚的にこの数値は間違っているだろ、というようなことは避けたいです。そのため、根拠に基づいたモデル設計が必要となります。今回の発表では、過去の事例に基づいて確率を算出したものであったのですが、数値を大きく外してしまう要因がいくつかあるのではないかと、論文を執筆していて感じました。例えば、避難意思決定ルールは、アンケートでその事象が発生した時の避難者割合をそのまま用いていたが、より統計に基づいて有意な項目のみを選定する必要があります。また、建物倒壊率も、先行研究や事例に基づいてフラジリティ曲線を用いていましたが、累積正規分布だと震度6強以上における倒壊率があまりにも高いという問題があります。そのような問題に対処するため、数値モデルが重要だと思い、「多モデル思考:データを知恵に変える24の数理モデルを読み始めました。まだ序盤ですが、モデル設計に役立つ知識が豊富にあると思います。

三つ目は個人的な話ですが、英語力が必要だと痛感しました。特に、学会では従来の教育のような読む・書くではなく、話す・聞くが求められ、独自の訓練が必要です。幸い、市川研究室では、英会話を必要とする機会が増えてきました。ブログでお馴染みのgPBLであったり、海外からの留学生が2人きていることなどから、英語力を向上させるうってつけのチャンスです。また、芝浦工業大学では、無料のプレゼン英語修得講座を開講しており、せっかくなのでそちらも受講してみようと思います。

最後に

当日発表したスライドは以下のとおりです。現在はまだ拙いモデルですが、絶賛機能拡大中です。もし興味がありましたらぜひご連絡ください。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


投稿者

塚本 純也

芝浦工業大学 理工学研究科 機能制御システム専攻(博士課程1年)市川研究室所属。エージェントベースシミュレーションモデルの設計に従事。博士課程の研究はAIやシミュレーションを用いた自治体向けリアルタイム防災訓練の開発。最近はゲーミングの領域にも挑戦している。

Email: mf21082@shibaura-it.ac.jp

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