2022/03/11

【第27回社会システム部会】大学進学および大学卒業後の就職における人口移動モデルの構築

こんにちは。M1学年が終了する中村です。

2022年3月6日から8日にかけて、社会システム部会研究会という学会が行われました。今回、私は「ミドル」の発表区分で、自身の研究で構築しているシミュレーションモデルについて、15分の発表を行ってきました。

今回発表したモデルは、研究の一部にすぎないので、発表内容に移る前に、まず、簡単に研究の全体像を紹介いたします。

私の研究は、シミュレーション内の世界の状況に合わせて、人口変動に関する個人の意思決定を表現することで、動的に人口予測を行うモデルを構築するものとなっております。この研究によって可能になることの例を挙げると、人口減少下にあるまちが、人口獲得を目指して何らかの施策を打つ場合、施策をモデル化して人口予測モデルと組み合わせることで、本当にその施策は意図した結果を導くのか、他のまちにはどのような影響を与えたのか等の分析ができるようになります。

本研究では、人口変動を表現するために、自然増減や社会増減に影響を与える様々な出来事についての複数のモデルを構築し、それらを組み合わせて人口予測を行なっております。

今回の学会で発表した内容は、上記のうち、進学と就職についての地域間人口移動モデルに該当するモデルです。これらのモデルは、大学進学や大学卒業の新卒就職の際に、都道府県レベルで大まかにどの地域に移動するのかということの表現を試みています。

まず、大学進学による地域間移動モデル(以下、大学進学移動モデル)について紹介いたします。下の画像がモデル概要となっております。

大学進学移動モデルでは、今回は、高校卒業年度の生徒を対象として、生徒の意思決定と大学の意思決定をもとに、大学進学における都道府県間移動を表現します。生徒の意思決定は、大学進学を希望するかの意思決定、受験先大学の選別の意思決定、受験後にどの合格大学を選択するかの意思決定の3つを設定しています。大学の意思決定は、合格者選択の意思決定(受験)を設定しています。また、シミュレーションは、実在する高校生数(卒業年度)に対して、独自に構築した大学データベースの情報を用いて、実在する各大学の各学科を受験する設計となっております。詳細については、下の画像をご覧ください。

令和3年度都道府県別大学入学者数のシミュレーション結果は、以下のとおりです。結果の体感的な判断がしやすいように、母数は多少異りますが、令和2年度大学入学者数を参考までに合わせて描画しています。

現役進学率については概ね一致しましたが、現段階のモデルでは、偏差値帯以外の条件を特に設けていないため、都心に過剰に存在している定員枠にそのまま入学者が引き寄せられる状況にあります。また、モデルの妥当性とは話が異なりますが、今回作成した大学データベースが大学および学科を網羅しているわけではないのにもかかわらず、手元のデータだけで定員の過剰供給度合い(赤線に対する黒破線)がはっきりとわかります。

大学進学移動モデルについては、今後、地理空間的条件や経済的条件をモデルに加えて、都市圏への過剰な進学予測を改善していきます。

次に、新卒就職移動モデルについて紹介いたします。下の画像がモデル概要となっております。今回は試作モデルとして、就職による移動が現れやすい大学卒業時の年齢に相当する22歳における人口移動について、いくつかの条件 (下図の環境条件)による意思決定を用いたボトムアップによる地域間人口移動の予測結果から、エージェントの属性が年齢のみの粒度が荒いこのモデルで、どこまで予測できているかを分析します。

今回のモデルで使用した修正重力モデルはこちらです

シミュレーションの設定については、下の画像をご覧ください。

2015年度の都道府県別18歳人口を用いて、5年度の23歳人口の分布を予測したシミュレーション結果は、以下のとおりです。今回のモデルでは、現実の23歳人口の分布と比較して、都市圏の人口が地方圏へ流出するという実態と異なる結果となりました。

実は、都市圏の人口が地方圏へ流出するといった、人口移動が激しい地域の人口が過小推定されたのには、理由があります。それは、今回、地域間の移動率を求めるために使用したモデルでは、パラメータ推定の過程で推定値を対数変換しているため、モデルから得られるデータを逆対数変換しなければ移動率を直接示す値にならず、予測値の逆対数変換には、より値が大きいデータを過小推定してしまうからです。そのため、線形モデルを用いて予測モデルを構築していく際は、以下の図のような、理論的問題点をおさえながら、手法選択を行う必要があると同時に、ここが今回のモデルの改善点となっています。

今回の学会では、重力モデルを用いた予測モデルの説明を行いましたが、勾配ブースティング決定木など、従来の線形重力モデルを用いない移動の予測モデルについても同時並行で構築しています。こちらはブラックボックスモデルであるため、変数選択と解釈をより慎重に進めていく必要がありますが、そこを乗り越えてかつ計算速度が十分であるならば、強力な機械学習モデルを今後採用する可能性もあります。

当学会を経て、類似研究を過去に行なっていらっしゃった先生をはじめとする査読コメントなど、大変有意義なアドバイスを頂くことができました。今後モデルを逐次拡大していく必要もありますが、今回の発表で扱ったモデルについても、より現実に則した結果の得られるモデルになるように改善を進めていく所存です。

以上、お読みいただきありがとうございました。

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