DSG-SIM 仮想災害シナリオジェネレータ&シミュレーション


地震や洪水などの災害を仮想空間上でシミュレート。シミュレーション結果を用いて県庁職員やDHEATの訓練に運用

芝浦工業大学市川研究室では、県庁や保健所などの組織における災害対策本部訓練に使用する被害情報を作成しています。エージェントベースモデルの手法と、合成人口データを用いることで、従来手法よりも詳細な避難者の推計や、根拠に基づいたシナリオ設計が可能となります。県庁をはじめとした様々な地域でこのシステムは活用されており、今後も引き続き訓練シナリオを作成する予定です。また、本研究はSIP事業の一環として行われています。

プロジェクトの背景

日本は、地震や洪水など、多くの自然災害が発生する国です。被害を最小限に抑えるためにも、各組織における発災直後の対応は非常に大切となってきます。特に、県庁職員や保健所では、発災から2~3日の超急性期における、一刻も早い情報収集と情報発信が重要となります。しかしながら、実際に災害が起こってみると、どのように行動すれば良いのかは、わからないものです。過去の地震からも、被害が大きかった地域ほど混乱も大きく、初動体制の確立が困難であったという報告例もあります。

実際の災害の備えとして、各々の組織が何を行うのか、また、各組織の情報共有等の連携が必要です。そのような災害対策力を高めるためにも、事前の訓練が必要となります。県庁や保健所職員向けの訓練として、災害対策本部訓練があります。この訓練は、実際の災害のシナリオを踏まえた防災図上訓練であり、演習などを含むことから、災害対策力の向上に効果的な訓練方法となっています。災害対策本部訓練はシナリオの設定が重要となります。現実に即した訓練シナリオを織り交ぜることで、実際の災害を再現し、訓練の質を上げることができます。このシナリオ作成にて、本システムは効果を発揮します。

手法

本シミュレーションは、エージェントベースモデル(Agent Based Modeling: ABM)を使用したシミュレーションモデルです。ABMは、社会シミュレーションの技法であり、モデル内の人々の相互作用を再現することが可能であり、これにより、人々がどのように行動するのかを再現することができます。また、ABMの実装にあたり、SOARS Toolkit(プログラミング言語のJavaで開発された社会シミュレーション用ライブラリ)を用いて構築しています。

上記では、ABMの手法において、人々の行動について述べましたが、そもそも災害を発生させることや、被害状況を再現することも必要です。例えば、建物の倒壊情報は、過去の大規模災害で被災した一部損壊件数、半壊件数、全壊件数を収集し、その収集したデータに見合うような確率を、数理モデルでフィッティングさせて導きます。同様の手法を用いて、インフラの復旧率なども再現しています。以下の図のように、過去の災害をプロットしたデータを数式に表し、その数式に基づいて確率的に被害を出現させています。このような根拠に基づく計算により算出されたデータを使用し、保健所の被害状況をD24H(*1)に受け渡すことが可能となっています。

このようなシミュレーションを経て、避難所に関する以下のようなアウトプットを出すことができます。各指定避難所に避難者が何人集まったのかを情報提供することができます。避難所の情報については、上記と同様、インフラの被害についても関連させて情報提供可能です。これらの避難人数は、合成人口データ(*2)を使用しており、リアリティの高い避難者数を表すことができています。

実績

DSG-SIMを用いた防災図上訓練は、2024年より、様々な訓練で活用され始めました。活用例を以下に示します。訓練で情報を提供する度、他の県庁職員の方から声をかけていただき、多くの依頼をいただいております。

主催区分訓練名実施日
1令和6年度九州ブロックDHEAT訓練9/6
2内閣府大規模地震時医療活動訓練(千葉県)9/27-28
3令和6年度熊本県総合防災訓練10/5
4宮崎県訓練10/12
5保健所熊本県有明保健所災害訓練11/11
6保健所大阪府茨木保健所合同災害訓練11/14
7自衛隊みちのくALERT2024(接続のみ)11/15-17
8茨城県DHEATローカル研修11/22,29,12/6
9保健所令和6年度 峡東圏域情報伝達訓練11/23
10DMAT中国ブロックDMAT訓練(広島)11/30
11保健所鹿本地域災害医療救護提供体制構築訓練12/14
12保健所吾妻保健所避難所情報入力訓練12/26
13愛知県訓練災害時保健師初動体制構築訓練1/27
14静岡県災害時健康支援研修会1/29
15保健所宮崎市保健所避難所支援調整訓練2/3
16保健所秋田県大館保健所 訓練2/5-6
17保健所高知県 保健医療調整本部訓練2/6
18山梨県訓練2/10
19令和6年度兵庫県阪神北圏域合同災害訓練2/13
20保健所秋田県 DHEAT県内研修2/28
21医療機関群馬県医療活動訓練3/1
22保健所愛媛県災害時健康危機管理対応人材育成研修3/10
※2024年度実績(2025年3月12日時点)

展望

現在のシミュレーションでは、情報の一部を切り取り、被災情報としてシナリオの提示していますが、職員の方が行った意思決定をリアルタイムで反映させることができるモデルを作っていきたいと考えています(上記の図のリアルタイム反映部分が未実装です)。そのほか、近年のAIやChatGPT、LLMの進化から、そのようなツールを取り入れた新しいシミュレーションの作成も考えております。

また、単にシミュレーションに落とし込むのではなく、それをより活用しやすい形にしたゲーミング教材の開発も視野に入れております。このような支援により、今後も災害のレジリエンス向上を後押ししていきたい次第です。

*1:災害時保健医療福祉活動 情報支援システム -D24H-:https://www.ds.se.shibaura-it.ac.jp/?page_id=19

*2:リアルスケール社会シミュレーションを実現する模擬個票を開発https://www.shibaura-it.ac.jp/headline/detail/nid00002972.html