灘岡咲希.教員の勤務シミュレーションによる学校の労働環境改善に向けた検討.芝浦工業大学,2021,学士論文.
近年,公立学校教員の長時間労働の常態化や精神疾患者の増加など,学校の過酷な労働環境が問題視されている.問題解決に向けて行政が進めている働き方改革では,十分な効果が得られておらず,複雑な勤務体制や労働環境を読み解く必要がある.本研究では,教員の労働改革に向けて,学校の内部構造に着目したシミュレーションを用いて勤務を可視化することから検討する.結果より,教員の勤務をシミュレーションの構築を可能とし,本モデルで突発的業務が発生した場合,特に支援の必要な区分は新人からベテランの間の教員であることが明らかになった.より具現性のあるモデルの構築には,より実際に近いデータの収集や様々な個人特性を利用することが求められる.
近年、教員の長時間労働や職務の負担増加などの学校の過酷な労働環境が指摘されている。学校教員が日常的に時間外労働や仕事の持ち帰りを行い,過剰な勤務時間量を行なっていたり、教員の仕事が一般企業に勤める会社員よりストレスを感じやすいなどといったことは、国の様々な調査で明らかになっている。長時間労働や職務上のストレスや負担は、過労死や精神疾患の発生につながっており、勤務体制を見直す必要がある。
対策として、国の取り組みで行われている働き方改革では、コピー機の導入や勤務時間の管理などで対策が取られており、会議数の減少や在校時間の減少といった効果は出ている。こういった国の体系的な取り組みに加え、組織の内面からの構造に着目した改善策の模索を行うことが重要と考える。先行研究では触れられていない、シミュレーションを手法としたアプローチで、より効果的な改善策を検討していくことが可能であると考える。本研究では、先行研究や様々な教員の勤務に関する調査で分析された結果をもとに教員が日常的に行う多様な職務の性質を分析し,性質や特徴,業務時間量などを集約した業務データを作成する。さらに、ABMを使用して教員が学校で勤務を遂行するシミュレーションを構築することで、学校の働き方に効果的な解決策を検討する。
業務データの作成には、文部科学省の教員勤務実態調査で使用された学校業務分類データを基盤に、先行研究で得られた業務の特徴や業務ごとの時間量、業務自体の性質を集約し、教員が日常的に行なっている業務に対しての明確化を行なった。シミュレーションの構築には、S4 Simulation Systemソフトを用いて、エージェントベースシミュレーションモデルの構築を行なった。モデルの概要として、教員を含む学校環境下で、業務を遂行するプロセスの中で発生する教員間の相互作用を可視化し、個々の教員の業務時間の推移を記録する。業務は日常業務に加えて、学級内の問題や急な事務業務を想定した突発的業務を発生させる。突発的業務は教員個人単位で発生するものと、学校内で教員間で共有できる2種類のモデルを構築した。業務は年齢区分が高い教員から取得する設定とした。シミュレーション結果では、学内の教員の構成に対して、年齢区分の割合を変化させたところ、業務の負担量に対して大きく変化する結果となった。
以上より、勤務再現をシミュレーションで可能にした。また、改善策の検討を行なっていく上で、学校内部の中では人によっての業務の偏りが発生すること構造があり、本稿の突発的業務の定義以上の業務が発生した場合、更なる業務時間が課せられる実態を把握した。今後、学校現場の労働環境を改善する施策を打ち出していくには、実際のデータの使用したシミュレーションの構築や性別や個人パーソナリティなどの個人特性を追加し、より具現性のある再現を行なう必要があると考える。