2020/12/06

2020年度芝浦工業大学大学院中間発表会 エージェントベースモデルによる避難行動シミュレータの構築

M1の渡邉です. 芝浦工業大学大学院システム理工学専攻の2020年度M1中間発表会が2020/12/5(土)に開催されました. 私らの研究チームでは, 震災発生時にどういった属性を持つ被災者がどこへどの程度, どのような避難行動を起こすのかを解明し, それらをシミュレーションに組み込むことで被災者の避難状況を擬似的に作り出すシミュレータを構築しています. 作り出された擬似的避難状況を用いることで, より現実的な訓練・研修を実施可能となります. また, 実災害で起こりうる被害を想定した複数のシナリオを作成することができるため, 様々な状況下での訓練等の実施を通じて対応力を高めることが期待できるでしょう. 昨日の発表会では, 避難行動の解明, シミュレータの構築の進捗状況について発表を行いました. 以下, 方法論について説明します.

避難行動の解明

文献調査により, 21本の論文から避難行動に影響を与える要因の抽出し, 要因整理によって避難行動をモデル化しました. 複数の震災事例で取り上げられていた要因を普遍であり, 影響のある要因として抽出しています. 避難行動に影響を与える主な要因としては, 住宅被害の程度, インフラの機能停止等があげられました. また, 近隣住民の呼びかけ等も挙げられ, 避難行動は他者の行動が大きく関与することがわかります. これは, 以下で詳細について説明しますが, シミュレータを構築する手法として, エージェント一人ひとりの相互作用を表現可能であるエージェントベースモデルを用いる意義となります. 以下に, 要因整理の結果と, それらをフローチャートにまとめた図を示します.

避難行動に影響を与える主な要因
避難行動フローチャート

フローチャートの構造として, 分岐点「避難の有無」内で被災者が避難行動をとるか否かの意思決定を行います. 意思決定の判断は, 各被災者の属性や置かれる状況といった要因等が複雑に絡み合った結果, 導かれます.

シミュレータの構築

以上で説明した避難行動フローチャートを組み込み, エージェントベースモデル実装JavaライブラリSOARS Toolkit1)を利用し, 地理情報や世帯構成を再現した都市モデルを用いた被災者行動シミュレーションモデルを構築しました. モデルのケーススタディとして人口約66 万人の熊本県熊本市を例に仮想都市モデルを構築し, シミュレーションを回した結果を以下の図に示します. 熊本市の人口/世帯分布を考慮するにあたり, 国勢調査の統計情報をもとに合成した仮想的な個人•世帯情報(以下, 模擬個票2))を利用し, エージェントを生成しています. 模擬個票には, 年齢, 性別, 家族構成, 就職先等の情報が現実の日本と統計的に一致するように付加されています.

各スポットにおけるエージェント数の推移

今後, 発災時の被災者行動アンケート調査を実施予定です. これらの結果と模擬個票のデータ等を組み合わせることで, より現実に則した避難状況を擬似的に作り出すシミュレータを構築する予定です.

参考文献

1) 小野, 市川, 出口:大規模エージェントベースシミュレーションのためのSOARS Toolkitの提案,SSI2020,GS6-4-5,(2020)
2) 原田,村田,枡井.家族類型と世帯内の役割を考慮したSA法による大規模世帯の合成.計測自動制御学会論文集,54巻,9号,p.705-717.(2018)

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